本日のテーマは「歯周組織再生療法の概要」というお話です。
歯周病という恐ろしい病により、日本人の将来の歯・残存数や健康は脅かされています。そして厄介なことに、歯周病によって深くなった歯周ポケットは、もう元に戻らないという意見が定説ですね。
ですがそんな絶望的な状況に、救世主的な手を差し伸べる治療法が存在するのです。それこそ「歯周組織再生療法」という治療です。では歯周組織再生療法とは、どのような治療法で、その治療法には種類などもあるのでしょうか…?
本章では歯周組織再生療法のマクロな概要を、持て余すことなくお伝えできればと感じます。
フラップ手術
まず歯周組織再生療法は、主に「フラップ手術」という技法を用います。
①flapの意味
フラップ手術は外科手術であり、メスを用いた治療法です。その為にまず、歯周病により歯周ポケットが深くなった部分の歯肉を切り開きます。すると歯肉の切り開いた皮が、扉や本のカバーのように開閉する薄い部分のように見えるでしょう。
少し話を変えて「flap」というボキャブラリーを紐解くと「羽ばたく」・「はためく」・「ぱたぱたと動く」という意味が紹介されています。つまりは歯肉の皮が上記のような状態になるので、プラップ手術と呼称される訳ですね。
②歯根部分露出で歯石除去
そして歯周組織再生療法は、次の段階へと駒を進めます。
フラップ手術により歯肉を切り開いたことで、歯根部分が露出しますよね…。そんな普段は歯肉によって埋没している箇所にも、歯周病罹患者は歯石が蓄積しているのです。この箇所の歯石はフラップ手術で切り開かない限り、歯科クリーニングでも除去できないもの…。
もちろんその歯石の中にも「1mg中1億個程」の細菌が生息しており、その中には歯周病原細菌も跋扈しています。だからこそ専用の器具で、その歯石という汚れをまず除去する。これにより、歯周病再生療法の下地をつくることが可能となるのですね。
③薬剤の流し込み
次にこの治療法のメインとなる、薬剤の流し込みが行われます。
この薬剤が、歯周病により損傷してしまった歯肉や歯槽骨を復元させるというから驚きです。もちろん100%という訳ではなく、人によって効果がでる者、でない者がいるのだとか…。更には効果が出る人の中でも差異があるので「歯周病になったら、歯周組織再生療法を受診すればいいや」という、安直な考え方はしないようにご留意ください。
④歯肉戻し傷口縫合
薬剤さえ流し込めば、もう歯周組織再生療法のメイン治療は終了と言えます。あとはフラップ手術で切り開いた歯肉を戻し、傷口を縫合させるだけでしょう。
術後1~2日は出血しやすい状況にもなりますし、痛みも感じやすいものです。その為に入浴や運動などは避け、もし痛みが耐えられないのであれば、痛み止めの薬で乗り切るという具合です。また1週間後には、傷跡が繋がることから抜糸も行えます。その後は時間薬といった感じでしょう。
そして治療後に、しっかりと歯磨きや生活習慣を整えれば、歯肉・歯槽骨が復元されてきます。とどのつまり、歯と歯の間の歯周ポケットと呼ばれる溝が浅くなってくるのですね。これにて歯周組織再生療法は完結となります。
2つの薬剤
では次に「2つの薬剤」についてご紹介しましょう。
前項でお話したフラップ手術の段取りの中に、歯根部分に薬剤を流し込むという過程がありましたよね。そこで使用される薬剤には、主に2つの種類があるのです。
この2つの薬剤についての詳細は、それぞれを記事にしてまとめUPしたいと考えています。ですがここでは簡単に予習として、どんな薬剤かという情報をお伝えさせてください。
①エムドゲイン
2つの薬剤・1つ目は「エムドゲイン」です。
エムドゲインとは、生後6ヶ月の子豚の歯胚(エナメルマトリックスタンパク)から作られた薬剤のこと。つまりは動物由来の天然材料となる薬剤なのですね。治療実績としても20年と長い歴史を持ち、約40カ国200万人以上が受診し、副作用が少なく安全性が高いことで有名です。
②リグロス
次に2つの薬剤・2つ目は「リグロス」です。
リグロスは、線維芽細胞増殖因子に遺伝子組み換え技術を施し作られた合成薬剤のこと。エムドゲインが動物由来の天然材料だったのに対し、こちらは人工的な要素が強い点が特徴です。
線維芽細胞とは、皮膚の真皮に存在する細胞で「コラーゲン・エラスチン・ヒアルロン酸」などの真皮成分を形成する役割を担います。「えっ?なんで皮膚・肌の細胞を作る線維芽細胞が、歯に影響するの?」と感じた方もきっといるでしょう。
その理由として、歯根膜細胞にも線維芽細胞のレセプター(受容体)が多かったからだそうです。その事象に目をつけた研究者は「では遺伝子組換えにより、真皮の細胞をつくると同じように、歯肉・歯槽骨を復活させられないか…?」と考えた訳ですね。
最後に
本日は「歯周組織再生療法の概要」というお話、いかがでしたか?
まだまだ、歯周組織再生療法について語りたい気持ちで胸がいっぱいです。しかし1記事で全てを詰め込めば、リーディングする方も情報過多で、頭から情報がこぼれ落ちてしまうことでしょう。ですのでこの続きは、次回記事へと持ち越させてください。
次のお話からは、2つの薬剤としてご紹介した「エムドゲイン」・「リグロス」を、それぞれ深堀りして解説させて頂きます。
本日はご精読ありがとうございました。
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