本日のテーマは「歯周組織再生療法①エムドゲイン」というお話です。
1度でも歯周病に侵されてしまった歯肉や歯槽骨は、本来元通りにならないというのが定説です。しかし人類はそんな当たり前さえ、科学・医学の力で書き換えてしまったのです。そう、歯周組織は再生することが可能なのですね。
そして、歯周組織再生療法で使用される薬剤は2つあります。それが「エムドゲイン」と「リグロス」という薬剤です。ではそれぞれの薬剤はどのようなモノ・性質を持ち合わせているのでしょう…?
本記事から2記事に渡って、薬剤のご紹介をさせて頂きたいと思います。歯周組織再生療法を検討中という方の、薬剤選びの一助になれば幸いです。今回のお話は1つ目の薬剤「エムドゲイン」です。
歯の構造
「エムドゲインは何か…?」と、いきなり結論を言いたい気持ちで胸がいっぱいです。しかし歯の構造という前提知識を知らなければ、結論を聞いたところで「?」が頭の中で踊りますよね。ですので1度寄り道のお話として、歯の構造をご説明させてください。
歯の構造は、4つの部位に分かれます。その部位が「エナメル質」・「セメント質」・「象牙質」・「歯髄」です。
①エナメル質・セメント質
まずエナメル質とセメント質は、歯の表面を覆う硬い組織です。
私たちが肉眼で確認している歯というパーツは、主にこの2つの部位を見ています。そして2つの部位の差異は何かというと、上層の見える位置にある部分か、下層にあり歯肉に埋まって見えない部分にあるかの違いですね。とどのつまり抜糸したり、歯周病が進行した人でなければ、本来はセメント質を拝むことはできないのです。
②ガラス質の塗料&粘土・石灰が主成分の接合剤
そして2部位の名称由来のお話です。
まずエナメルというボキャブラリーは「ガラス質の塗料」のことです。つまり表面に見えていて、艶を放っていることからついた名称と言えるでしょう。それに対しセメントという語彙は「粘土・石灰を主成分とする土木建築用の接合剤」です。水で練ったとろみあるセメントに、2つのパーツを繋ぎ合わせて後は乾くのを待てば、非常に固くなり接着を助けるのですね。
そして歯根(歯の下側のセメント質)に歯根膜が付着しており、土台となる歯槽骨との結合を手助けします。この歯根膜がセメントのようだねという理由で、近くの部位がセメント質と名付けられたのです。
③象牙質・歯髄
では次に象牙質ですが、歯の内部にある硬い組織のことです。
あくまで前項のエナメル質・セメント質は歯の表層であり、深層に位置する部分がこの象牙質となるのですね。象の牙のように硬い、歯の本体という意味合いから象牙質と呼称されました。
そして歯髄は、象牙質(歯)のさらに内部にある血管や神経の総称です。この歯髄は、とても柔弱な組織として知られています。それを硬い強固な象牙質が、守っているというメカニズムです。ここまでが歯の構造の全てです。
さぁ歯の構造の話をそろそろ締めて、本題のエムドゲインについて覗いていきましょう。
エナメルマトリックスタンパク
エムドゲインという薬剤は「エナメルマトリックスタンパク」から作られます。
①エネメル質に特異的に存在するタンパク質
エナメルマトリックスタンパクとは、歯のエナメル質に特異的に存在するタンパク質のことです。
前項のお話で学んだとおり、歯の表層・上層部分(エナメル質)に存在しているタンパク質ということですね。そしてエナメル質という母体にあるタンパク質だからこそ、エナメルマトリックスタンパクと呼称されているのですね。
このエナメルマトリックスタンパクからエムドゲインは作られ、とどのつまりこの薬剤は動物由来の天然材料として安全性が高いのです。
②生後6ヶ月子豚の歯胚から抽出
そしてエナメルマトリックスタンパクの抽出ですが、なんと生後6ヶ月の子豚の歯胚(歯の基となる芽)から抽出が行われます。人間から抽出しない理由は、基本的人権の物語をコモンセンスとしている人類だからこそでしょう。ですがその前提物語と関係ないところで、1つ疑問が浮かびませんか…?
その疑問とは「えっ?何で子豚なの?」・「大人になった豚じゃ駄目なの?」という疑問です。
③幼若エナメル質に1%含有
その理由としては、幼若エナメル質に1%だけ含有することが挙げられます。
つまりは大人になった豚のエナメル質は成熟エナメル質であり、エナメルマトリックスタンパクはもう存在しない…。だからこそ子豚のうち、幼若エナメル質のうちに、エナメルマトリックスタンパクを抽出しなければならないのですね。
④セメント質の形成促進
そしてエナメルマトリックスタンパクは、セメント質の形成を促進することが判明したそう…。セメント質に存在していないのにも関わらず、形成だけ促進をするのは少し不思議ですね。しかし、ファクトはそのようです。
そして抽出したエナメルマトリックスタンパクに改良が加えられ、エムドゲインとなった薬剤は、セメント質ではなくその下部に位置する歯肉や歯槽骨の再生を可能としたのですね。これにより歯周病で損傷した歯周組織を、再生させるというメカニズムです。
エムドゲインのメリット・デメリット
では最後に、エムドゲインという薬剤のメリット・デメリットをご紹介しましょう。
①20年・40カ国・200万人以上の治療実績
まずエムドゲインのメリットとして挙げられる代表例は「治療実績」です。
その長さは20年以上と長く、約40カ国に住む200万人以上の人が治療を受診しています。そして大きな副作用もなく、安全性の高さがここまでのデータによって保証されているのですね。
②厚生労働省の認可
その他のメリットとしても「厚生労働省の認可」も安心材料です。
2002年に日本の厚生労働省が、エムドゲインに対して認可を下ろしています。やはり国のお墨付きがあるか否かで、自分が治療を受けるか否かを決断する人は多いはず…。そのような観点からも、エムドゲインは軽い気持ちで受診が出来ますね。
③実費
ですが、デメリットがないわけではありません。
まず代表的なエムドゲインのデメリットは「実費」です。
2024年現在では日本の保険制度で適応範囲外であり、3割負担ではすまないのが実情です。つまりはとても高額なお金が必要となり、経済的に余裕のある人でなければ、重い腰が中々あがらないかもしれません。
④リグロス比較で歯槽骨再生能力低め
また次回記事でご紹介する「リグロス」と比較したときにも、デメリットの1つが露出します。それは「歯槽骨の再生能力が低め」であること。
あくまで相対的なものなので、これも人によりリスクとならない方もいるでしょう。しかし高い成果を望む主観の人にとっては、とても頭が痛い要素となりますね。
最後に
本日は「歯周組織再生療法①エムドゲイン」というお話、いかがでしたか?
改めて人間の考える力による科学・医学の発展の凄さを、知ることが出来たのではないでしょうか。もちろん人類のためとはいえ、産まれたばかりの子豚を犠牲にすることは心が痛むのですが…。ただ生物が生きていくというファクトは、生物を殺すというファクトです。これがこの世の実情、食物連鎖の世なのかもしれませんね。
次回記事では、もう1つの歯周組織再生療法の薬剤「リグロス」についても学んでいきます。是非とも、そちらの記事もお見逃しないように…。そしてもしもあなたが歯周病進行で悩んでいるのなら、どちらの薬剤にするかをメリット・デメリットを吟味して、自分の頭で決断してくださいね。
本日はご精読ありがとうございました。
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