本日のテーマは「歯周組織再生療法②リグロス」というお話です。
歯周病を患うと、被害を受けた歯肉・歯槽骨は元には戻らない。あとは少しでも、現状維持に努めるだけというのが常識ですね。ですが人類はそんな当たり前さえも書き換え、歯周組織を再生する治療法を編み出したのです。
それこそ「歯周組織再生療法」であり、そこで使用される薬剤には2つのものが存在します。それが「エムドゲイン」と「リグロス」という薬剤です。
前記事ではエムドゲインのお話をさせて頂きましたが、遂にもう1つの薬剤・リグロスについてのお話に入ります。ではリグロスとは、一体どのようなモノ・性質を持ち合わせているのでしょう…?
線維芽細胞増殖因子
リグロスという薬剤は「線維芽細胞増殖因子」から改良され作られます。
線維芽細胞増殖因子とは、名称通りに線維芽細胞を増殖させる司令を出す因子のこと。
①皮膚について
「線維芽細胞…?どこか美容界隈の書籍・動画で聞いたことがあるような…?」と感じた、そこのあなたへ。その記憶は正しく、線維芽細胞は美肌を保つために重要なファクターとなる細胞です。
皮膚(肌)は「表皮・真皮・脂肪組織・SMAS筋膜・表情筋」という順に連なっています。その2層目に位置する真皮に、この線維芽細胞が存在するのですね。
②真皮について
真皮構造は「コラーゲン・エラスチン・ヒアルロン酸・線維芽細胞」という要素で形成されています。
コラーゲンとエラスチンは、繊維状のタンパク質であり、肌の弾力を生み出すことが使命です。コラーゲン繊維が伸びていることにより弾力を保ち、エラスチン繊維によりそれらを繋ぎ止めているという具合です。
分かりやすいよう身近なものに例えると「紐とフック」のような関係性ですね。コラーゲン線維が紐であり、伸びた紐をエラスチン線維というフックが留めている。もしもフックがなければ、紐は弛んでしまうことでしょう。
またヒアルロン酸は、水分を抱えながら覆うゼリー状の気質です。これが瑞々しい艶のある肌の源泉です。
③線維芽細胞の役割
では唯一残った線維芽細胞とは、一体どんな役割を持つのでしょう…?
その役割とは「真皮成分の形成」です。
とどのつまり「コラーゲン・エラスチン・ヒアルロン酸」などの、産生工場ということになりますね。コラーゲンもエラスチンも繊維状のタンパク質であり、それら繊維の芽となる細胞という意味合いから「線維芽細胞」と呼称されたのです。
歯の再生修復に応用
そんな美肌に必須な線維芽細胞増殖因子を「歯の再生修復に応用」した。
それこそ「リグロス」という、歯周組織再生療法の医薬品なのですね。
①歯根膜細胞にFGFレセプター
応用理由としては「歯根膜細胞にFGFレセプター」が多く存在していたからだそう…。「FGFレセプター…?新しい用語が…?」と、きっと感じましたよね。ですが決して難しいものではありません。
FGFとは「Fibroblast Growth Factors(ファイボブラスト グロース ファクターズ)」の略語であり、日本語訳は「線維芽細胞増殖因子」です。つまりはただ英語表記にして、頭文字をとって略語にしただけです。
そんな線維芽細胞因子(FGF)の受容体(レセプター)が、歯根膜細胞に多く存在していた…。そうなれば「線維芽細胞増殖因子さえ供給してあげれば、歯肉・歯槽骨が再生するのでは…」と考えた訳ですね。
②遺伝子組換え技術によりFGF-2製剤
そして抽出した線維芽細胞増殖因子(FGF)を基に、遺伝子組換え技術により「リグロス」という薬剤を完成させました。リグロスは商品名であり、実際の成分名称は「FGF-2製剤」と呼ばれるそうです。これは線維芽細胞増殖因子の2つ目のバージョンで、製剤だよという意味ですね。
リグロスのメリット・デメリット
では最後に「リグロスのメリット・デメリット」を覗いていきましょう。
①保険適用
リグロスのメリットとしては「保険適用」が挙げられます。
我が国では2016年に保険適用となり、3割負担で受診できることは嬉しい限りです。エムドゲインでは保険適用にならず、経済的に厳しい方も多いことでしょうから…。
例えば「10万円」の治療費がかかるケースで、リグロスなら「3万円」で済む。これならば、健康のためにお金を使おうという感情が湧いてきますよね。
②エムドゲイン比較で歯槽骨再生能力が高い
また別のメリットとしては「エムドゲイン比較で歯槽骨再生能力が高い」とも言われます。
あくまで日本での臨床試験の治療成績であり、リグロス誕生から時代も浅い…。そのため短期的報告&範囲狭めの根拠ですが、あるに越したことはありませんよね。
ここまでの情報だけ聞くと、リグロスが圧倒的に良いと感じてしまうもの。そこでもちろん、デメリットもご紹介していきます。
③紅斑・腫脹
まず「紅斑(こうはん)・腫脹(しゅちょう)」が挙げられます。
紅斑とは、血管拡張が原因で皮膚表面が赤くなってしまうこと。また腫脹は、炎症によりその器官に血液成分が溜まり、皮膚が腫れ上がってしまうことです。
この副作用は日本の治験で「424分の1」の確率で発生しており、全く0と言えるものではありませんね。
④口腔がんリスク
また最大の懸念点として「口腔がんリスク」が挙げられます。
線維芽細胞増殖因子は、細胞を活性化して増殖させる作用がある。このファクトはとても嬉しい限りなのですが、もしもその対象ががん細胞という相手ならどうなるでしょう…?
そう、がん細胞の増殖を手助けしてしまうでしょう。若い人ががんに罹患して早く進行してしまうのも、老人の進行が遅延しがちなのも同じ原則から来ています。
なので過去に口腔がんに罹患して治癒した経験のある人は、リグロスの使用ができないと言われています。もちろん自分ががん家系でなく、リスクを考えていたら何もできないというマインドなのであれば、リグロスのメリットは魅力的に映りますよね。
最後に
本日は「歯周組織再生療法②リグロス」というお話、いかがでしたか…?
これにて「エムドゲイン」と「リグロス」、2つの薬剤のご紹介は終了となります。是非とも両薬剤の情報を眺め、自分の頭で吟味して、どちらが良いかを判断してくださいね。
次回記事では余談として、両薬剤開発の歴史をお話させて頂きます。楽しみにしていただけると、嬉しいです。
本日はご精読ありがとうございました。
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